開幕戦カタールで2025年シーズンの一番星を獲得すると、その後も第2戦イモラ、第3戦スパ・フランコルシャンを制し連勝を続けるフェラーリ499Pは、今季のWEC世界耐久選手権において最強マシンの一台であることは間違いない。そして第4戦、伝統のル・マン24時間レースを制する最有力候補と言っても差し支えないだろう。
その一方で、昨シーズンを圧倒したスピードがすっかり影を潜めているのが、“王者”ポルシェ963だ。2024年はル・マンまでの序盤3戦でワークスチームであるポルシェ・ペンスキー、当時はカスタマーチームとして963を走らせたハーツ・チーム・JOTAがそれぞれ1勝を挙げたことを思えば、BoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)などの要素も無視できないが、今季は未だ1台も表彰台に上がっていないのは異常事態とも言える。
苦戦の要因としてしばしば推測されるのが、サスペンションの大改修とフロア形状のアップデートだ。
しかし、同じく963を携えエントリーするIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権では、開幕3連勝を決めた7号車が現在ランキングトップにつけている。WECとの純粋比較は難しいが、必ずしもポルシェが施したアップデートは失敗とは言い切れない。
では、なぜ想像以上にWECで苦戦を強いられているのだろうか? ここまでのWECやIMSAの戦況を踏まえると、ひとつの仮説(妄想?)が立てられるかもしれない。
「今季のエボリューション仕様は路面が荒いサーキット、とりわけル・マンでのパフォーマンスをメインターゲットに定めているのではないか」
まず、2023年に6年ぶりにWECのトップカテゴリーにカムバックを果たしたものの、歴代ル・マン最多優勝の耐久王は未だ勝利がない。メタ的な視点では、是が非でも欲しい復帰後初のル・マン優勝を虎視眈々と狙っているに違いないだろう。
コースの大部分に公道区間が含まれるル・マンの舞台、サルト・サーキットは、シリーズ戦が行われる他のサーキットと比べて路面の凹凸が大きく、荒れた舗装はグリップも得にくい。そして、ポルシェが依然好調を維持したIMSAのセブリングやロングビーチもその例外ではない。反対に苦戦が続いたWECでは、前半3戦は路面が非常にフラット、エアロ効果も出やすいカタールやスパが続いた。
もし、仮にポルシェが比較的ラフな路面状況との相性がよく、たとえばサスペンションもそうした効果を狙い柔軟な特性があるとすれば、カタールやスパでは車体が動きやすくなったことでフロアでの空力が効率的に獲得できず、また新型フロアとの合わせ込みにも苦しんだのかもしれない。
あくまでも想像の域を出ないが、もしポルシェが本当にル・マン必勝を掲げて963を仕立ててきたとすれば、フェラーリの連勝と連覇に待ったをかける対抗馬ともなり得る。しかし、ハイブリッドシステムをはじめとするマシンのソフトウェア面をさらに高効率化させたという499Pの牙城を崩すのは、簡単ではないだろう。
勝つのは“元耐久王”か、“現耐久王”か。勝負の行方と「妄想」の答え合わせは、6月14日に迎える第93回ル・マン24時間で明らかとなる。
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