そんなエネルギーマネジメントの駆け引きが多数見られた日本GP決勝では、ベアマンがクラッシュするアクシデントが発生しました。
ヘアピン(ターン11)からスプーンカーブ(ターン13)へと続く長い右コーナーの200R(ターン12)を走行中に、フランコ・コラピント(アルピーヌ)が電欠/スーパークリッピング状態となり車速が落ちるなか、後ろで続くベアマンはオーバーテイクモードを使用しコラピントを追い、2台のクロージングスピード(接近速度)は50km/h近くまで及びました。
その結果、2台は追突危機となり、避けようとしたベアマンがコース外の芝生に乗り上げ、そのままの勢いでバリアにヒット。50Gの衝撃を受けるクラッシュになりました。
前提として、このアクシデントに関し、誰にもペナルティは下っていないため、その原因が誰にあるかというお話はできません。ただ、今の規則が抱える課題のひとつであることは間違いないです。先行する車両が電欠/スーパークリッピング状態となり車速が落ちるなか、後ろのドライバーがオーバーテイクモードを使用して抜きにかかると、大幅な速度差が生まれます。
コラピントが電欠状態だったことはリヤライトの2回点滅でベアマンもわかることですし、かといってベアマンも無茶な動きをしていたわけでもありません。前のクルマが電欠になったら、オーバーテイクモードで抜きに行く、というのはおかしいことではありません。ただ、右コーナーの200Rはアウト側(コース左側)から抜きに行って少しでも走行ラインを外してしまうと、その先でコース外(スプーンカーブのイン側)に飛び出すしかないコーナーでした。
映像で確認すると、電欠のコラピントは200Rでコースの右側をキープしてスプーンに向かうラインを通る流れでした。ただ、後ろから来るベアマンの様子をたびたびミラーで確認していたコラピントは、ミラーを意識するあまりなのか、200Rの出口から少しコース中央(左側)にマシンが寄ってしまいます。ベアマンにしてみれば、コースの右側キープかと思われたコラピントがいきなり左側に膨らんできた。そうなるとコース外(スプーンカーブのイン側)に飛び出すしかなかった、という感じです。ただ、ペナルティが下っていないことから、コラピントは故意にそのような動きをとったわけではないという判断を審査委員会は下したのでしょう。
激しいアクシデントを見て、現在の規則にネガティブな印象を抱いた人もいらっしゃるでしょう。確かに、今のままの規則であれば、また何かが起きてしまう可能性はゼロではありませんし、実際に激しいアクシデントに繋がることは今回の日本GPで証明される結果になりました。今回のアクシデントをきっかけに、規則変更に関する議論のスピード感は早まるでしょうね。
さて、今年の日本GPは、初めてフジテレビ/FODの中継解説者として現地入りさせていただきました。今年はフジテレビNEXTの中継・解説のみなさんともご一緒させていただき、解説者として自分自身が足りなかった知見を得ることができたり、とても学びの多い時間を過ごすことができました。F1の魅力をみなさんにお伝えする立場として、その魅力をしっかりとお伝えするためには、もっと学ぶべきことがある。そう改めて考えさせられるきっかけにもなった日本GPでした。
次戦マイアミGPまで、F1は1カ月の間レースが行われません。走ることでデータを得たいチームにとってはネガティブな状況でしょうし、全チームが走れない状況を利用して挽回を計りたいチームにとってはポジティブに働く時間かもしれません。特に挽回を目指すチームは、この1カ月を自分たちの伸び代にどこまで使えるかの勝負になると思います。とはいえ、クルマやPUの開発や解析に関する部分なので、マイアミGPで走るまでその結果はわかりません。
期待という部分で言えば、日本GPでマクラーレンが好パフォーマンスを見せていましたので、この1カ月のインターバル中にさらにスピードを上げられる開発をし、そしてマイアミGPで良いアップデートを入れることができればチャンピオンシップはさらに面白くなるでしょうね。そして現在苦しんでいるアストンマーティン・ホンダや新規チームのキャデラックにとっては、ライバルチームへの接近を目指す1カ月となります。また、アウディは新規参入PUながら高い安定感を見せており今後に期待が持てます。あとはシャシー側がもう少しまとまってくれると、ベスト・オブ・ザ・レスト(上位チームを除く中堅の最上位)になる可能性も十分にありそうです。
この1カ月を経て、マイアミGPに向けて各チームはどれほどのアップデートを入るのか。どういう結果に繋がるのかは、本当に楽しみですね。1カ月間、F1の開催はありませんが、FODでは毎週水曜日に『F1 R.A.W.』をお届けする予定ですので、こちらも含めて、4月もF1を楽しんでいただければ幸いです。
【プロフィール】中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS鈴鹿)のカートクラスとフォーミュラクラスにおいてエグゼクティブディレクターとして後進の育成に携わりつつ、フジテレビFODのF1レギュラー解説者を務める。
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